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伊藤教授 講演資料

卒論(特別研究)課題例(2023年度)

1. 飲料水の微生物的安全確保のために制御が必要な病原微生物群の判別手法

水道原水に指標細菌(大腸菌、嫌気性芽胞菌)が検出された場合、クリプトスポリジウムによる汚染の恐れがあると判断され、ろ過処理などの対策を講じなければならないとされる。しかし、この問題点は指標細菌は実はどこにでもいることであり、ほぼ全ての水道にクリプトスポリジウム対策が求められてしまうことにある。わが国ではクリプトスポリジウムのネームバリューが強すぎるのである。本研究では、原水における細菌、ウイルス、原虫の存在実態を調査し、どの病原微生物群に着目すべきかを判別する方法論を確立する。さらに、細菌、ウイルス、原虫について、それぞれのリスクが卓越する原水条件を見出す。

2. 水道原水における病原細菌の高解像度スクリーニング

水道水の微生物的安全性は、大腸菌等の指標微生物や特定の病原体に的を絞って評価されてきた。しかし近年は分子生物学的手法の進歩が著しく、水中に存在する全ての微生物を根こそぎ検出することが可能となりつつある。本研究は多種多様な細菌の遺伝子配列を網羅的に取得することで、細菌群集の組成を高い解像度で(=わずかな種の違いも区別しながら)把握し、水中の病原細菌を一斉検出・定量できるような分析法を整備する。手法の適用によって水源における病原細菌の分布、さらには微生物リスクの可視化を目指す。

3.浄水処理・給配水システムにおける微生物リスクの評価と管理

我が国の水道水は塩素消毒がなされているが、滅菌状態の水が造られているわけでは決してない。浄水処理の過程や消毒前後、さらには給配水の過程で微生物群集はダイナミックに変動し、場合によっては特定の(病原)微生物が選別される/再増殖することがある。本研究は、高度浄水プロセスの単位操作である粒状活性炭層で増殖が問題となる動物プランクトンに着目し、その共生細菌も合わせて存在実態や制御手法を検討する。また、給水システム末端(病院や高齢者施設等)で水系感染症を引き起こすレジオネラ属菌にも焦点を当て、給水管内の生物膜や宿主アメーバからなる微生物群集もふまえながらレジオネラ再増殖を制御するための水質条件や水利用のあり方を導き出す。

4.腸管系ウイルスに関する知見を飛躍的に拡充させるための指標ウイルスの選定

飲料水の微生物的安全性を論ずるためには腸管系ウイルスを取り上げるのが重要であることは従来から指摘されてきた。にもかかわらず、ウイルスに関する知見は全く不十分である状況が長く続いている。その大きな理由は、ウイルスの水中濃度が低いため水処理過程における挙動を把握するのが容易ではないことがあげられる。本研究では、ウイルス粒子の構造からその表面特性を推定する手法を確立することによって、腸管系ウイルスに対する適切な指標ウイルスを選定する。さらに、選定した指標ウイルスを追跡することによって、浄水処理プロセスにおける腸管系ウイルスの挙動に関する知見を飛躍的に拡充させることを狙う。

5.消毒副生成物前駆体の同定とその制御

消毒副生成物の前駆体には人為由来のものと天然由来のものがあるが,いずれの場合もその特定は難しいとされてきた。本研究では分画技術と精密質量分析を駆使し、溶存有機物のうち特に藻類に由来する有機物中のハロ酢酸前駆体や下水中のN-ニトロソアミン類の前駆体、さらには人為由来化合物のうち塩素処理後の臭気(カルキ臭)の前駆体となるものの特定に取り組む。あわせて、これらの前駆体の物性や浄水処理プロセスでの挙動を把握するとともに、その制御に適した処理条件を探索する。

6.飲料水の安全確保のための合理的な水質検査・水質管理方法

水道水質基準は、項目と濃度の他に、検査頻度、検査地点数、検査方法が要件となっている。しかし、水源や水道施設の状況からは、明らかに過剰で不必要な検査が行われており、それには多額の費用を要することから水道料金を押し上げる要因になっている事例も見受けられる。本研究では、原水と水道水の水質データを精査し、真に必要な水質検査の内容を整理する。その上で、適切な水質管理方法を提示することを目指す。対象地域としては島根県雲南市、および京都市内に19か所存在する中山間地域水道を取り上げる。