卒論(特別研究)課題例(2024年度)
1.水質環境基準と水道水質基準を連携させた水道水の微生物的安全確保法の構築
厚生労働省が所管してきた水道整備・管理行政が令和6年度から国土交通省と環境省へ移管され、環境省は水道水質を担当することになった。今後は、水質環境基準と水道水質基準とが連携することによって水道水の安全性が確保されていくのが望ましい。本研究は、水道水の微生物(細菌・原虫・ウイルス)的安全確保の観点から、リスク評価にもとづく新たな水質環境基準を提示することを目的とする。その上で、浄水処理による除去・不活化能と併せて、水道水の安全性を保証できるようにする。一方、現行のA、B等の類型指定も見直し、河川における下水処理水の混入割合を用いた新たな分類方法を提案することを試みる。
2.水道水源における病原性原虫・細菌に関する実態調査とリスク評価
水道原水に指標細菌(大腸菌、嫌気性芽胞菌)が検出された場合、クリプトスポリジウムによる汚染の恐れがあると判断される。しかし、指標細菌は実はどのような水源でも検出され、原虫リスクを過大評価してしまうという限界がある。本研究はウェルシュ菌の下水由来株に特異的な遺伝子マーカーの新規開発や微生物起源追跡手法を通じて、新たな汚染指標を提案することを目指す。一方、細菌については遺伝子解析手法によって多くの病原種を網羅的に直接検出できるようになりつつある。様々な水源・汚染シナリオのもとでの病原細菌の群集の姿や消長を明らかにしつつ、重要な病原種を網羅したリスク評価手法を確立する。
3.水道水源における病原ウイルスリスク評価のための新規水中ウイルス濃縮法の開発
日本では水道水質基準においてウイルスに関連する項目はないが、水道水源となる河川水中から多様なウイルスが検出されることは多く報告されている。ノロウイルスなどの病原ウイルスは感染力が高く、低濃度であっても注意が必要であるため、ウイルスリスクを評価するためには河川水中の低濃度のウイルスをPCR等で定量可能な濃度まで膜を用いて濃縮する必要がある。この際の濃縮効率は10%あればよいとされ、水質や手法によっては1%台まで下がってしまう。本研究では、低濃度な病原ウイルスを高効率で濃縮する方法を開発し、リスク評価のための高感度なウイルス定量を可能とすることを目指す。
4.給配水システムにおける日和見感染菌の再増殖の制御
我が国の水道水は塩素消毒がなされているが、滅菌状態の水が造られているわけでは決してない。塩素消毒を経た後にも配水・給水の過程で微生物群集はダイナミックに変動し、場合によっては特定の(病原)微生物が選別される/再増殖することがある。本研究は、病院・高齢者施設等で問題となるレジオネラ菌や非結核性抗酸菌の再増殖に着目する。水道水源や消毒剤、給配水管材質、共存微生物(アメーバ等)といった影響因子も考慮しながら、浄水場から蛇口までの日和見菌リスクの管理手法について検討する。
5.浄水処理プロセスにおけるウイルス除去メカニズムの解明と除去指標の提案
ウイルスはナノサイズであるために、浄水場での砂ろ過や膜ろ過といった大きさによって汚染物質を取り除く工程では除去されないとみなされている。しかし、実処理場の調査では一定の除去率が報告されている。これらの処理工程でウイルス除去を保証するためには、その除去メカニズムを解明する必要がある。本研究ではウイルスと膜・砂間に生じる表面相互作用に着目する。ウイルスの荷電状態と表面疎水性を実測値と理論値の両面から評価し、それらが除去工程で及ぼす影響を評価する。
6.小規模水供給システムにおける安全な飲料水の持続的供給の実現方策に関する研究法
わが国には地元住民が管理する小規模な水供給システムが多数存在するが、飲料水としての安全性確保、高齢化に伴う維持管理負担、震災等の災害に対する耐力などに関する課題を抱えている。本研究では京都府福知山市内で唯一となった地元管理水道を有する北原地区をとりあげ、将来にわたって安全な飲料水を持続的に供給する方法を提示することを目的とする。水供給方法の選択肢は、集中型システム、分散型システム、運搬送水であるが、住民意向を反映させることも重視し、当該地域に適したシステムとして提示する。